長野市民新聞9月8日(日々青春)【ユニバーサルツーリズム・最期まで旅したい】
【「ライフガイド希望」代表:矢澤将良】仕事で映像制作のお手伝いをすることがあります。この夏は白馬村観光局の依頼で同村と小谷村を巡るツアーに同行しました。ユニバーサルツーリズムと言われるツアーで、介助者によって病気や障がいがあっても旅を楽しめます。
ツアーに参加したのは東京都にお住いのご夫婦で、ご主人に脳梗塞の後遺症がありました。夏の北アルプス山麓は高山植物が咲き、高齢者のご夫妻にとっても魅力のある場所ですが、ゴンドラやリフトを乗り継がねばならず、私は少し心配していました。しかし、ゴンドラは乗車時の祭に一時停止し、スタッフの介助でご夫妻は無事乗り込めました。できることなら他のお客様に向けて「車いすの方が乗車されますので一時停止します」といったアナウンスが流れれば、ゴンドラに乗っている全員が素晴らしい時を共有できたのにと感じました。
傷がいなどがある方にとって移動は大変なことです。幸いこうしたツアーを受け入れるだけあって、どこの施設も多目的トイレなどの設備は充実していました。中でも白馬五竜高山植物園にはトレイルライダーという乗り物があり、体の不自由な方の助けになっています。ただ、スタッフが2人必要な上に非常に高価で普及する見通しは立っていないようです。
ユニバーサルツーリズムは、多くの人にとって使いやすいというユニバーサルデザインの考え方を観光にあてはめたもので、旅行者の減少に端を発しているとも言えます。観光庁は以前から、その可能性と必要性をうたっていました。
65歳以上の高齢者は今や人口の約3割に達しています。高齢になれば病気や障がいに襲われる可能性が高まります。観光庁の考え方は、超高齢社会に向けて高齢者や障がい者を取り込もうということでしょうか。外国人観光客の受け入れも大切ですが、私はまずこちらを優先すべきだと思います。
ユニバーサルツーリズムは先人たちの努力によって切り開かれてきました。今回のツアーを企画した広島県の昭和観光社代表の平森良典さんは「理想に向け40年努力してきた」と言います。ツアーを受け入れた五竜、岩岳、栂池の各施設と白馬ハイランドホテルの対応も素晴らしいものでした。
参加されたご夫妻は久しぶりの旅行に満足した様子で、雨に見舞われたものの「良かった。こうしたツアーが広がるといいですね」と笑顔で話してくれました。そこにはアウトドアを楽しめたという充実感ばかりではなく、他人の優しさに触れた幸福感もあったような気がします。
2泊3日のツアー最終日早朝、白馬村は見事に晴れ上がりました。朝日を浴びて輝く白馬連峰は、ご夫妻とユニバーサルツーリズムに携わった人たちの心を晴れやかにしました。人は最期まで旅をしたいものだとあらためて思ったものです。
(「ライフガイド希望」代表:矢澤将良)